#2001.05/09
大岡昇平――モリオカのふりに応えて
モリオカは大岡昇平全集を借り出して読んでいるとのことだが、それは借りるまえに、私の作った全集目次を活用したのだろうか。ところで、大岡全集は3種類くらいあったと思うが、新しい全集のを借りたんだろうね。
大岡昇平はどこかで松本清張を批判していたと思うけれども、同時代を舞台とした小説・推理小説・歴史小説という系統をもって小説を書いていたという大雑把な目で見ると、似たところがあるんだよな。
それは今はおいておくとして、事改めていうほどのことではないだろうけれど、歴史が歴史たりうるのは、いかに説得的な物語たりうるかという点に求められることになるだろう。それは、場合によっては、ナショナル・アイデンティティにとって「説得力」のある共感しうる物語であるかもしれないし、国際関係において「説得力」のある物語であるかもしれないし、愚直な資料と証言の掘り起こしと整合性を提示しうる物語であるかもしれない。
大岡は、裁判小説(『事件』など)を書いているけれども、この小説は「裁判が<真実>を明らかにしうるかどうかを問題化した」というのではなく、<事実>として説得的に語りうる物語が、裁判というコミュニケーションの場でいかに生成するかを、語る主体でありうるかなきかの境界的な<少年>という形象を導入することで問題化した小説であると考えると、<事実>なり<歴史>なりとして語られる物語の場が、共身体的な性質をもち、孤立した身体をも巻き込むリアルなトポスであることを呈示しようとしていたというようにも思われるがどうだろう。

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