報告  No.1

  和歌山県立近代美術館    田中恭吉展   (2000.5/4 訪問)
  報告者: 山崎義光
 五月晴れのもと、和歌山県和歌山市中心部にある和歌山県立近代美術館で開催されておりました「田中恭吉展」を見て参りました。

 

 この美術館は、和歌山城のとなりにかなり広い敷地を有し、博物館と隣接して建っています。
 午前中に行くと、のどかな陽射しの中、閑散とした美術館に到着。とりあえず、一服つけてと、灰皿、ハイザラとつぶやきながらキョロキョロ見渡すと、ない。どこにも灰皿がおいてない、のです。前庭の大理石に腰かけて煙草を吸うおじいさんらを見習って、私も外で一服。もちろん吸い殻は、携帯灰皿へ納める。

 展示は、小さな作品ばかりかなりの数が出展されていたせいもあるが、フロアを結構広く感じた。
 周知のように、萩原朔太郎『月に吠える』の挿し絵を描いた人物として知られる田中恭吉は、その仕事を引き継いだ、版画家・装丁デザイナーとして知られる恩地孝四郎の友人でございます。
 ちなみに、1994〜1995に、恩地孝四郎展が開催され、私はそれを宮城県美術館へ見に参りました。
 展示は、従兄や恩地などに宛てた自筆絵入りハガキや、スケッチ帖、油絵、それに、同人誌『密室』や、私輯『月映』、公刊『月映』などの作品がありました。
 初めは、竹久夢二風の女性画や、風景画、草花のスケッチ等々、やさしく淡い詩情の作風であったのが、結核罹患以降、版画をはじめる頃から、ゴッホを想起させる曲線を基調としたペン画、ウゾウゾとした植物の葉脈を思わせる背景を基調とした、それこそ朔太郎の詩を思わせる抱擁の画題、太陽と地中の種から萌芽せる植物などといった作品へと転回していきます。
 これ以上書くと、ボロが出るのでやめときますが、描き捨てられたというべきか、完成が目論まれていないというべきか、ハガキやスケッチに描きこまれたそれらの作品は、、小さく深く生けるものの得体の知れなさへの想像と、宇宙へと飛散された生命論的想像とを表象するかのごとき画題が、満載されておりました。

 

 この企画は、和歌山県立近代美術館の後は、町田市立国際版画美術館で6/3〜7/9、愛知県美術館で7/15〜8/27、に開催されるようです。

 帰りには、JR和歌山駅にて、紀州の梅干しをお土産に買ってまいりました。

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